コミュニケーションツールを上手に使うために ~知識編2~ 対面とビデオ通話(映像+音声)の違いはどこにあるか

前回は、コミュニケーションの効果をはかる上で、「伝達感(主観)」と「伝達度(事実)」という指標から、コミュニケーションツールの特徴の違いをご紹介しました。 その中で、表情(視覚)や声のトーン(聴覚)を通して伝達される心理状態、いわゆる「こころ」が非常に重要となってくるということをポリヴェーガル理論から解説しました。

【前回の記事はこちら】 コミュニケーションツールを上手に使うために ~知識編~

今回は、新たな指標として、会話のスムースさを表す「発話プランニング」を加えて、同じ聴覚、視覚を使いながらも、「伝達感」において対面がビデオ通話(映像+音声)より有利なのはどうしてなのか、について考えていきましょう。

1.発話プランニング

発話プランニングとは、「相手との会話をスムースに進めつつ、相手の意図等をくみ取りながら、良いタイミングで正しい情報を話すために、自分の発話のタイミングを考えること」です。この、発話プランニングは、主に2つのことを考慮しています(長尾,1995)。

  • 会話の流れを損なわれないように、自分が発話するタイミングであること
  • 曖昧さなく意図を伝達する手段であること

みなさん、会話の中で、自分が発話をしようとするときや、相手に話を理解してもらおうとするとき、どのようなことをヒントにしているか、工夫しているか、少し振返ってみてください。

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いかがでしたでしょうか。皆さん自身で既に工夫していることや無意識に発話のタイミングとして利用していることもあったのではないでしょうか。

このように、「発話プラインニング」における発話の良いタイミングと会話内容の曖昧さの解消のために、私たちは言葉だけではなく様々な感覚を用いていますが、このような視点はコミュニケーションにおいて非常に重要であることが、なんとなく思い浮かべられたと思います。

相手の顔が見えない(=視覚が使えない)と、相手の表情や体の動きから発話のタイミングをはかることができませんよね。逆に、「あれ」「これ」という参照表現をジェスチャーや物を指さすなど、視覚を利用することでよりわかりやすく伝わる、ということです。

このような視点は「モダリティ」という概念で説明できます。

■モダリティ

視覚、聴覚、触覚などの感覚を用いて、外界からの情報を知覚するやり方であり、また、そのような感覚に働きかけるやり方。

複数の感覚を利用することで「発話プランニング」が容易になり、より良いコミュニケーションが取れるようになります。このように、複数の感覚を用いることができることを、マルチモーダルということばで表します。

さて、改めて、対面とビデオ通話(映像+音声)について考えてみます。「発話プランニング」の容易さについては、使える感覚が多い対面とビデオ通話(映像+音声)に大きな差はありません。

それでは、この2つのコミュニケーションツールの違いはどのような点でしょうか。

2.対面とビデオ通話(映像+音声)の違い

この違いは「見る範囲」と「見る機能」で考えることができます。

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①「見る範囲」について

見る範囲は表の通り、対面の方が広く様々な情報を得ることができます。例えば、顔や表情では笑顔でも、貧乏ゆすりをしていたり、手元でペンをいじったりしていたりしていることに気づくと「あ、相手はイライラしているかもしれない」と察することができますよね。

②「見る機能」について

■立体視

人や動物が、両眼の網膜に映る画像の差異から対象を立体と知覚すること

立体視が機能することで、脳は視覚や、その他の感覚器の感度を上げ、対象をより詳しく感じ取ろうとするので、より多くの情報を得ようとするのです。

絵や写真の場合は、網膜にはほぼ同じ像が映るため、絵や写真と現実の対象物では、感覚器官におよぼす影響が根本的に異なるということが、認知心理学等の研究の結果、判明しています。(Pinker,1997)。

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ビデオ通話では、絵や写真を見るのと同様に立体視を機能させることができず、視覚その他の感覚器の機能が制限されます。

その人のもつ雰囲気や印象は対面でより伝わりやすく、また、ビデオ会議では、発話のタイミングが難しいと感じられるのも、これらが要因と考えられます。

このように、対面とビデオ通話(映像+音声)には似ている部分もありますが、「見る」という機能の視点から違いがあるということです。

例えば、数多くの自由な意見や発想から、知を生み出そうとするブレーンストーミングでは、「発話プランニング」の容易さが求められますが、ビデオ通話は対面に比べて、相当不利と言えるでしょう。

また、1対1であってもビデオ通話では、発話プランニングの難易度が増すことから、対面より疲労を感じたり、むしろ、相手の顔が見えない電話の方が、長時間話せるということも起こり得ます。(平面の相手の顔を見ながら話すよりは、相手の表情等を想像する方が没頭しやすい)。

どちらかの方がより優れている、ということではなく、状況に応じて得手不得手があるということを理解しておきましょう。


■コラム:「立体視で心を知る!?」

アメリカの著名な認知心理学者であるスティーブン・ピンカーは「立体視は心の仕組みを知るパラダイム」と述べています(Pinker,1997)。

人はマルチモーダルな能力を駆使することで、他者と共有世界ともち、その世界から対象の意味を見い出すと同時に、そうした心の動きを育んでいるとも言えます。さらに、その豊かな交流をもとに「文化の継承」と「文化の創造」という人間の心が可能にさせた根源的な営みが育てられていくとも言われています。(大藪泰,2019

アメリカの著名な企業のいくつかが、リモート勤務に大幅な制約をし、これまでのワークスタイルから方向転換をしたことが紹介されています。その理由として、対面のコミュニケーションの速さやスムースさ、対面のコミュニケーションによる一体感の醸成、集団の方がイノベーティブになるなどがあげられています(小林,2020)が、これらは今回の「発話プランニング」の視点からも納得できますね。


最後に、前回の表に「発話プラインニング」の容易さを加えて、新たにコミュニケーションツールの特徴を示したものです。「伝達感」とほぼ同じになっており、「伝達感」の実感は、この「発話プランニング」の要素が大きいと考えられます。

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※☆の数は多いほど、伝達感、伝達度が高い。

コミュニケーションにおいては、これらのコミュニケーションツールの特徴や制約を踏まえて、上手に活用することが一層求められることになります。機会がありましたら、「コミュニケーションツールを上手に使うために~実践編~」として、実際のコミュニケーションツールの活用例をこれまでの2回の知識編を踏まえて、紹介できればと思います。


(参考資料)

長尾確 1995 マルチモーダルインターフェースとエージェント

Pinker,S.1997 How the mind works(椋田直子 山下篤子訳「心の仕組み(中)」日本放送出版協会)

大藪泰 2019 共同注意という子育て環境 

小林剛 2020 テレワークの「落とし穴」とその対策 大空出版

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